第1597回 昭和の伝道師【 戦中、戦後のパイロットの物語 】
第1596話 稲本時治郎一等兵曹の事。2016年8月9日火曜日の投稿です。
古川 海軍中将を司令長官とする、浅間、八雲、出雲の3隻の練習艦隊は、
一路伊予灘を通過して豊後水道方面に南下していったのですが、 そのような中、
日はとっぷりくれていき、 私達が乗り組んでいる 八雲の第1分隊という、 戦後
で言う 航海科の分隊があるのですが、その取りまとめ役をしている 3人の一等
兵曹がいて、たしか、 稲本 時治郎 と言う人と、 それから 猿田 泉蔵という人
と、佐藤 洋平という3人がいて、 私達を整列させて、 一等兵曹の中の1番の
先任なのか、稲本 時治郎さんが、私達を整列させて、 「 少尉候補生は、これ
より、就寝場所に案内するので、艦内は薄暗いので、案内役に 迷わないように
ついていくように。」と、 大声で叫んだのです。
朝から立ちっぱなしであった 私達は「 やれやれやがな。」と思ったのです。
海軍兵学校の時に聞いていたのは、将校になると 艦内に士官室があって、
ここで 当番兵に「 おーーぃ お茶。」と命令すると、 すすすすっと出て来て、
士官室には ラジオや レコードプレーヤーや、将棋盤、碁盤などもあってー云々。」
というお話を聞いていて、私達は特権階級の仲間入りが出来ると思い込んでいた
のです。
そして 食事なども 「当時は珍しい 西洋料理が出て来て、ーーー云々。」と
鉄の城の艦艇生活を楽しみにしていたのです。
そのような中、 私達の前に、「 申告いたします、 一等水兵 押切 玉五郎
これより 少尉候補生殿を指定の艦内にご案内いたします。」と言うので、
私達は、「 全員 行進始めーーぃ。」の号令に従って、 行儀よく、押切 一等
水兵に案内してもらったのです。
ところが、と゜こに連れて行かれるのかと思っていると、なんと ただの薄暗い
廊下のような場所であったのです。
心の中で、「 なんやてぃーー。」と、 思ったわけです。
みなさんに以前紹介したのですが、私達は、前日まで 海軍兵学校の寝台、
つまり ベットのような場所で寝起きしていたので、多いに驚いたのです。
押切 玉五郎 一等水兵のお話では、「 ここで、ハンモックを吊っていただ
きます。」 と言う、 みんな、 じっーーと無言で 玉五郎こと、押切一等水兵を
見つめたのでした。
私達は、 とんでもない場所に配置になったと、多いに後悔したのでした。
これが、練習艦隊の初夜の始まりであったのです。
【明日に続く。】