第28回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
どうやら、いつの間にか、みんな脱落して、自分が生徒の中では、1番になったようで、びっくりしたのであるが、
20分、30分すると、小舟と一緒に、みんなが、くたびれた表情で、浜にあがってきた。
最後の船は、1時間遅れぐらいだったか、そんな感じで、みんな帰ってきた、ひとりも、おぼれる人間はいなかっ
たようである。
小舟を出してくれている漁師の奥さん達が、海水の塩水で、銀米【白米】のごはんを炊いてくれて、魚の刺身と、
焼き魚を出してくれて、これが美味しかった、ご飯は、微妙な塩味がして、何ともいえない味で、寺の粗末な精進
料理の毎日だったので、魚の美味しいこと、久々に、腹一杯食べて満足であった。
山本師範が、「あー諸氏は、明日、修了証を渡すので、不断寺の境内に集合するように。」と、お話があり、疲れ
て疲労していたのであるが、ごちそうを食べて、元気を取り戻し、宿舎の寺に戻ったのであった。
宿舎に戻ると、海軍士官に呼ばれ、色々と体の具合、本日の泳ぎの状況等、聞き取りを受けた後、猪口中尉よ
り、「きさまは、初めて見たとき、へたくそな犬かきで、最後まで講習にいないだろうと、阿部と一杯かけていたの
であるが、期待に反して、よく頑張った、おかげで、色々と海軍省に提出する論文の材料が出来、よかったと思っ
ておる。」 阿部中尉が、「ま、難しいと考えるが、ひとつ、教えてやる。海軍という所は、こつこつと努力して、大
成していく人間は、求めず、はじめから優秀な人材を採用する。つまりだな、お金をかけて、人を育成するより
は、育成完了の人間の方が安上がりで良いからだ、そういうわけで、そのことを貴様、頭に入れて受験がんば
ってみろ。」と激励を受けた。
【次回に続く】