第755回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第754話 海軍兵学校 甲板清掃実技授業の事。 2014年3月17日 月曜日の投稿です。
【せっつ】は、 右舷に保高島を見ながら、江田内に向かっていたのでした。
休憩時間が終わり、集合の号令ラッパが鳴り、私達は、 後の甲板に集合し、
点呼のあと、整列したのでありました。
副 砲長の寺田 幸吉 海軍大尉殿が、 私達に、甲板清掃と、人の管理統帥
についてのお話をされたのでした。
海軍少尉に任官しますと、 年上の下士官や、水兵に命令して、自分がまかさ
れた部署、部隊を統率し、 場合によっては、戦闘時は、 部下の兵士に、「死ん
でこい。」と、非情な命令を出さないといけない場合があるという、そんなお話で
ありました。
例えば、 敵と砲撃戦の戦闘中、 部下が、爆風で飛ばされて、3名程度、海中に
落下して、溺れて死にそうな姿で、 助けを求めている。
こう言う場合に、 どうするかという質問をされたのです。
「 あーーーーー、貴様、 貴様だ。」と、私の方を指さされまして、私があてられて
回答することになったのです。
以前、私が郷里の、畝傍中学に在学中、人の注目を浴びると、顔が赤くなって、
上がってしまう、 よって、「 たこ 。」 とクラスであだ名がついていたのですが、
そんなことを紹介したと思いますが、 みんなから注目され、真っ赤な顔をして、
「 自分は、機関停止して、 海面に落ちた水兵を助けに行きます。」と、 こう返事
をすると、「 落第。」と言われ、 次々と、別の生徒が指名されて、最後にこんな
お話があったのです。
「戦闘中は、 3人のために、艦を停止すると、 敵の射撃の的になるような物で、
3人の為に千人近い命を危険にさらす行為である。
そのような事は指揮官として慎まなくてはならん。
気の毒だが、3人には、戦闘が終わるまでは、海水浴をしてもらう、 戦闘が終わっ
てから救助をする、 これが正しい模範回答である。
戦争は、必ず戦死者、負傷者が出る。
貴様ら士官は、なるべく、その数を減らす努力をしないといかん。
1人のために、5人、10人と、殺すようなことは避けねばならん。
時には、5人を助けるために、1人に死ねと命令することもある、
情けは無用、兵は品物と考えよ、 下士官は、品物を縛る紐と考えよ。
おまえ達は、物を紐で縛って、戦争をしたり、 大勢でひとつの物事を進めていく、
指示を出す、命令する、作戦を考える、そういう立場である。良く覚えておくように。」
と、お話があったのです。
そして、 甲板清掃の実技なのですが、 自分でやるのではなくて、 人に指示を出
して、多くの人を動かしていく、そんな説明があったのです。
中には、年上の人もいますし、年下の人もいるわけです。 士官は、なにもせず、
感じでありました。
どうするかといいますと、海水をバケツで汲んで、甲板にまいて、 水兵が横一列
で、タワシのような物で、甲板を摺って行くわけです。
それを、甲板士官が、雷のような大声で指示を出して監督するのですが、 上から
それらの作業を見学していて、当時、はたして自分に出来るのであろうか、やって
いけるのであろうかと、ずいぶんと不安に感じたのを記憶しています。
【次回に続く。】