第324回 昭和の伝道師 【戦中。戦後のパイロットの物語】
第323話 海軍兵学校 口頭面接入学試験の事 2012年12月31日月曜日投稿です。
あいうえお順序であったら、けだから、はじめであるが、いろはにの順序なので、源田實は、
最後であった。
緊張して、まずは引き戸を簡単にたたいて、大きな声で挨拶してから、引き戸を開けると、頭の中で、
考えていたのであるが、どういうわけか、となりの部屋から、文官が出てきて、 源田の椅子の前の
戸を開けて入って行ったのであった。
しばらくして、尾道中学の吉原生徒が、前を横切って、無言で階段を下りていったのであった。
少しすると、御丁寧に、軍曹が、「受験番号 88番、 源田實 入室せよ。」と、引き戸を開けてくれた
ので、少しは、楽になったのであった。
「広島県立第1中学校 卒業、 受験番号88番、 源田實 入ります。」と、大きな声で、叫んで、
虎穴の中に入ったのであった。
すかすかと、歩いて、木の椅子の横に、背筋を伸ばして、直立不動で、きょうつけをして、立ったので
あった。
中には、面接官は一人のはずが、海軍大尉と、なぜか、背広姿の文官の2名になっていたのであった。
「源田 實 着席せよ。」と指示を受けて、着席したのであつた。
ヘビのような冷たい目付きの海軍大尉は、何も無言で、じっと、こちらを見据えて、胸が痛くなるようで
たまらなかったのであった。
背広姿の文官が、「口頭面接試験は、君たちを、不合格にするための面接ではなく、どのような考え
なのかを、測る面接であるからして、学校の先生におそわったであろう、模範解答はせずに、率直に考えを
述べなさい。
「 まず第1は、尊敬する人物は誰か、 1名名前をあげなさい。」と、言われたのであった。
1中の先生は、東郷平八郎元帥を推薦していたのであるが、井上や石村が、しゃべっていると思い、
自己流で、「徐 庶 。」【じょしょ】と、解答したのであった。
おそらく、海軍将校達には、わかるまいと、あえて、難しい古典の兵法家の名前を出したのであった。
海軍大尉は、「誰だ。」と言うような顔つきで、こちらを見ていたのであるが、文官は、「ここ数年、いろいろな
生徒と、話したが、中国の徐 庶 とは、面白い解答だと、こちらをじっと見据えたのであった。」
【次回に続く。】