第341回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】

第340話   大正10年5月10日 早朝の出来事   2013年1月17日木曜日の投稿です。
 
 
 
   ところ変わって、奈良市の宿屋、大和屋の1室で、朝の4時に起床した、淵田美津雄こと私は、
 
他の客の迷惑にならないよう、忍び足で、1階に降りて、井戸端で、顔を洗ったのであった。
 
今日の口頭試験は、良いとして、昼からの身体検査の視力検査が問題であった。
 
 忍び足で、部屋に戻ると、財布を開けて、持参金を調べたのであった。
 
葛城の家を出てから、もう7日、ずいぶんと手元の資金が、少なくなっていたのであった。
 
母と父は、大阪の病院で、金を持ってきてもらうわけには行かず、ずいぶんと、気が重い財布の
 
中身であった。
 
 
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    今日の出発の準備をした後、 視力表を数種類カバンから出して、床の違い棚において、
 
 朝の5時前から、密かに視力検査の練習したのであった。
 
  海軍兵学校の入学基準は、視力1,0以上、私は、0,7から8程度しか、視力がなかったのである。
 
 宿屋の人にも、内緒で練習である。
 
  もしかしたら、私がどんな過ごし方をしていたか、陸軍の憲兵隊が調べに来るかもしれない。
 
事は、隠密を要する事案であった。
 
  1年程度前から、石井眼科の先生に調達していただいた、視力表で、い、ろ、は、に、ほ、とか、
 
上、下、右、左とか、覚えていくのであるが、上の方は見えるので、下から数列、暗記すればよいので
 
あった。
 
  1度目の身体検査で、なんとか、上手にやり通したのであったが、今日は、身体検査の視力検査が、
 
大変な気がかりであった。
 
  夜が明けて、6時を過ぎると、まな板と包丁の音か、女将の朝食を作る音が、聞こえてきたのであった。
 
 視力検査ーーー、宿屋の部屋で、一人で、「えらいこっちゃのーー。」とつぶやいたのであった。
 
 
 
【次回に続く。】