第630回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】

第629話   略取ロシア兵器、一路オムスクへの事。 2013年11月12日 火曜日の投稿です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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    深夜、0200時をまわった頃、 ウラジオストック横浜正金銀行 浦潮支店の2階の、
 
泰平組合 【日本陸軍諜報機関の司令部】 ウラジオストック支店の部屋に、裏口から、 
 
西本願寺、浦潮分教場の僧侶に変装している、大田 覚眠 が、 ウラジオストック駅の偵察活動
 
を終えて、帰社してきたのでした。
 
 
 
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支店のソファーで、 自動拳銃の手入れをしていた、 高柳陸軍少将は、南部式小型拳銃の後部の
 
つまみを引いて、スライドを引くと、 弾装を下から挿入し、 スライドを前に押して、 実弾を
 
装填したのでした。  高柳保太郎 陸軍少将は、 「寺内正毅 閣下が、部品数が多い、予算が無い、
 
機構が複雑などと言って、 不採用となったが、 薄くて、 ポケットに入り、 場所も取らず、
 
 なかなか良い拳銃だがーーーーーー。」 と、独り言を言っていると、   大田諜報員を
 
見ると、「 おーーう、帰ったか、駅は、どうであった。」と、声をかけたのでした。
 
 
 
 
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「 閣下、申告いたします。 本日2300時、 予定通り シベリア鉄道、 ウラジオストック到着、
 
 2330時頃から、貨物ヤードにて、 ロシア製押収兵器を搭載した、貨車19両を 連結作業に
 
 
 
 
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入った模様、 駅構内で、 ロシア白軍大佐、 ミハエルの行動を見届けて、 帰隊いたしました。
 
別段、変わったことなく、推移いたしまして、 申告に上がりました。」
 
 
 
 
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と、告げると、高柳少将は、「 深夜にご苦労、 大田、貴様の所に留め置いている、ポーランドと、
 
チェコ人の孤児は、どうしておる。」と、問いただすと、 「 はっ、外務省の用意した、貨物船で、
 
舞鶴経由で、敦賀、長浜、彦根、大津、京都の各寺に分けまして、 寺で養育しておるそうであります。
 
ただいま、500名 以上になりまして、 目下の所、まだ増えそうであります。」 と、報告すると、
 
 
 
 
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高柳少将は、「 おい、三好、 金庫から、道中旅費を出してこい。」と、命令すると、「 言葉も通じぬ、
 
子供の世話は、疲れるだろうが、 これも、皇国【おくに】のためと信じ、 目的を完遂せよ。」と、 訓示
 
をしたのでありました。
 
  しばらくすると、三好中尉が、路銀として紙幣を用意すると、 懐に紙幣を少し入れた後、
 
旅行カバンに、 紙幣をしまい込み、 旅行カバンから、別の封筒を出し、 大田諜報員に、
 
手渡したのでした。
 
 
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「 おい、大田、 孤児の子供たちに、なにか、 好きな物を調達して、 配給せよ、わしの
 
私費である。」と告げて、渡すと、 大田 覚眠は、 両手を合わせて、 懐に入れたのでした。
 
高柳少将は、「 おい、貴様、軍人よりも、坊主姿が、板についてきたぞ。」と、ニコニコしながら言うと。
 
「閣下、 道中、 武運、天運の長久をお祈りします。」 と、 大田諜報員が手を合わせて、 告げると、 
 
高柳少将は、「 常在戦場、 いつ命がなくなっても、おかしくない、貴様も用心しろ。」と、
 
言って、ニコニコしながら、 三好中尉に、 1通の軍事郵便を手渡したのでした。
 
 
 
 
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「明日、様子を見て、 軍事郵便で、 陸軍省田中義一陸軍大臣宛で、発送せよ、 電信は事の
 
露見につながるので、発信はするな、 わしは、これより、0600時発の シベリア鉄道オムスク
 
行きに同乗し、 ロシア兵器と、ミハエル大佐の護衛とオムスク特務機関の、三井、石川 両名と、
 
オムスクでおち合う、手はずである。」 と言い残して、 暗いウラジオストックのソベントスカヤ
 
通りに消えていったのでした。
 
 
 
 
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   日本の商社マンの姿に変装した、高柳保太郎少将は、 0500時、ウラジオストック駅に
 
到着し、 プラットホームを散歩するように、鉄道貨車の連結を確認すると、客車に乗り込み、
 
0600時の定刻に、鉄道は、するすると、ウラジオストック駅を出発したのでした。
 
  
 
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 それから、10日ほどたった、陸軍省に、 ウラジオストックから、時の陸軍大臣 田中義一宛に
 
投函された、軍事郵便が、田中の元に届いたのでした。
 
 
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  封筒を開封した田中の副官の陸軍中佐は、 訳のわからぬ文章に困惑し、 田中大臣が、 
 
大臣室に戻ると、「 閣下、 高柳陸軍少将より、軍事郵便が届いております。」と、その手紙を
 
手渡したのでした。
 
 
 
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   手紙には、ただ、 【 タケトキユノオシラウ】と、だけ、書いてあったのです。
 
   反対側の後から、「うらしおの雪とけた。」 と、読み取った田中義一陸軍大臣は、 ユキ2号指令
 
の一段作戦、 ロシア製押収兵器の無血略取作戦が無事完遂されたと、認識し、 「 高柳少将、
 
なかなか役に立つ男、 今後、わしが首相官邸に入るのに、使えそうだ。」と、つぶやいたのでした。
 
 
【次回に続く。】