第816回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
大正10年12月24日 土曜日の事、 私達は何度も服装検査を行い、やっと帰省の許可が
おりまして、 娑婆【しゃば 兵学校の外の事】に出られたのでした。
にようかんを納入していたのですが、そこで、羊羹を買い求めまして、 8月にお世話になった、
小用の 三谷の婆さんの家を訪問し、 預けてある本などを、受け取って、帰りの鉄道の客車の
中で預けてあった本を読もうと、こう言う予定であったのです。
井上生徒と、福元生徒が、一緒に広島まで行こうというので、 羊羹を買いに行くのと、
どちらにしろ、小用の港の船乗り場は、生徒の順番待ちで、長蛇の列で、随分待たないと
いけないはずで、そのような話をすると、 二人ともみやげにするので一緒に買いに行くと言う、
5人で、矢野の羊羹屋に行ったのでした。
兵学校で聞いたんじゃが、 ここは、だいじょうぶきゃーーの。」と、聞くと、おばさんが、
「江田島のこの辺は、大丈夫ヨーー、変な病気の人は、1人もおりゃーせんけえ。」と、
言うので、私達は、安心して、羊羹を買い求めたのです。
考えて見ると、日持ちがするので、お土産にも良いですし、 途中、腹がすいたら
食べても良いですしと考えて、少したくさんかいました。
すると、私達の後から、 後を附いてきたのか、 今川生徒など、東京の出身の
生徒達がぞろぞろ続いて入ってきて、 矢野の店の中の羊羹は、あっという間に
売り切れてしまったのでした。
私達は、早めに羊羹を買いこんで良かったと、 ほっとして、少し買いすぎたの
ですが、自己満足して、一路、東側の峠道を小用の港を目指して、歩いたのでした。
【次回に続く。】