第1452回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第1451話 横山祐義 刀匠の困窮の事。 2016年2月22日月曜日の投稿です。
【 当時の呉鎮守府 】
司令長官に就任した、 鈴木 貫太郎 海軍中将は、 呉市の資産家の 児玉 勤
さんの訪問を受けたのです。
児玉 勤 さんと言う人は、どんな人かというと、 当時 呉の町で、土地や
借家を多数所有している、 分限者 つまり、裕福な市民でした。
【 当時の 呉鎮守府司令長官 鈴木 貫太郎 海軍中将 】
児玉さんは、「 閣下、 酷暑の中、もうしわけありません。 実は今日は
横山祐義 刀匠の事で、相談がありまして、 お力添えいたたくと有り難いです
がのうーー。」 と切り出すと、鈴木閣下は、「 おうーー、あの高松宮殿下の
短剣の作者のことか、 いったいどうしたのか。」 と、問い直すと、児玉さんは、
「 閣下、 海軍から 横山さんに仕事を出していただくわけにはいきませんで
しょうか、 実は、福山の借家の家賃も滞り、生活にも難儀をしておる有様で
して、 仕事さえあれば、 老体にむち打ってでも、お金が稼げるのですが、
不景気な 昨今、 刀の注文が、ないんですわーー。」 と、こんなお話で
あったのです。
当時、時たま、日本刀制作の仕事の依頼があっても、毎日仕事が無く、
生活が成り立たない状態であったのです。
北海道の小樽に買い集めて、シベリアにどんどん運んでいたので、日本国内で
売り惜しみや、ブローカーの買いだめなどが横行して、 商店の米、味噌、酒
などの日用品が数倍に跳ね上がり、 庶民生活を圧迫していたのです。
これらの全国的な物価上昇は、 富山県の主婦のデモ行進に端を発し、
大阪などでの主要都市で、暴動となり、大正の米騒動と呼ばれ、焼き討ち
なども行われ、 陸軍が治安出動して、武力鎮圧する騒動となっていたのです。
そんな 世の中で、なかなか 当時も高級品であった日本刀を新しく
鍛造してくれないかという、そう言う注文はなく、 横山刀匠は、仕事が無く
貧乏して、大変な思いをされていたようです。
鈴木 閣下は、 黙って聞いていて、「 そりゃ 無理だ。」と、児玉さんに
返事をしたのです。
当時、独り者の多かった水兵は、三食ついているので良いとして、 所帯持ちが
多かった下士官は、海軍だけの給料では、 米などの生活必需品が3倍以上
値上がりしていて、生活が成り立たず、 呉鎮守府でも、大きな問題となっていた
のです。
そんなご時世に、用もないのに、日本刀を発注する海軍の予算は無いという
わけです。
鈴木閣下は、 「 事情は察するが、その船にはのれんよ、初めから経緯を
ワシに聞かせろ。」と言って、 児玉さんから 横山祐義刀匠の困窮の話を
聞いた後、 「 ふーーーん。」と、 頭をひねった後、 鈴木閣下は、「 貴様は、
ワシの所に来る前、どういう努力をしたのか。」と、 問いかけられたのです。
児玉さんが、「 実は、いろんな人にも、嫁入りの短刀を作らないかとかーー
色々お話をしてみたのですが、良い話にはなりませんでーー。」と語ると、
鈴木閣下が、「 よし、 貴様は、まず、横山刀匠の住む場所をこの呉で作れ、
貴様は、借家をたくさん所有しておるだろう、 1軒ぐらいなんとかせよ、 次に
刀を造る場所だが、 数年前に予算削減で閉鎖された、山の上の亀山神社の
鍛錬所、 あそこを、宮司と貴様が話をして、使えるようにせよ。」と言うと、
児玉さんが、「 閣下、 そのくらいのことは、私にも出来ますが、 問題は、刀の
注文でしてーー。」 と言うと、 鈴木閣下が、「 それだ、 貴様の話を聞くと、
宣伝と言う事が不足しておるようだ。」 と言うと、 「 海軍としては、用事もないの
に予算不足の中、 刀の注文を出すわけにいかん、 しかしだな、 違う形で、
我輩が、知恵を出して応援してやろう。」 と、こう言う話をされたのです。
【 呉鎮守府 庁舎 】
呉鎮守府 司令長官であった 鈴木 貫太郎 海軍中将は、呉の刀剣倶楽部の
面々が考えつかないような提案をされて、 児玉さんの横山刀匠の生活援助の
要望に答えようとされたのでした。
鈴木閣下の智恵で、 日本刀の鍛造注文が舞い込むことになって行くのでした。
【明日に続く。】