第72回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語。】
第71話、入学試験3日目 国語、漢文の試験の話。 2012年4月19日木曜日投稿。
試験会場の連隊講堂に入ってきた海軍士官は、前に立つと、「全員起立。」と号令して、我々をたたせた。
「全生徒は、傾注。」といって、とことこと、ゆっくりと我々の机の間を歩きながら、話し出した。
「いいか、今日の予定を申し述べる。良く聞いておくように、本日の0900時より、1100時までを国語、漢文の
試験時間とする。早くできた生徒は、提出して、講堂を出てよろしい。」
「1110時から、1150時までを、採点の時間とする。1200時に結果を掲示板に貼り出すので、合格者は、130
0時に、また、この講堂に戻り、番号が、朱墨でひかれていた生徒は、帰宅するように。」
「1310時から1500時までを、化学、物理の試験、1510時から1550時までを採点時間とし、1600時を
合否の発表時間とする。」
海軍将校は、話しながら、自分の近くまで来て、「受験番号86番、きさまー、それは何の包みか。」と大きな声
で、怒鳴る物だから、首をすくめて、小さくなっていると、「Mの作った物か。」と聞くので、「Mいうたら、何でしょ
うか。」と聞いたら、海軍将校が、「ばかもーーん。何でしょうかではなくて、海軍では、Mとは、マザー、略してM
と呼ぶ、よくきさま覚えとくように。」と言われたので、「これは、旅館の女将さんが、朝4時から、自分のために作
ってくれた、お弁当であります。」と言うと、海軍士官が、「弁当箱は、後に置いて、机に置かないように。」と言う
ので後の、机の上に置こうとしたところ、海軍士官が、「受験番号 86番、きさまー、勝手にうごくなー。」と、大き
な声で、怒るので、困ってしまった。
海軍士官が、「いいか、1100時にここを出たら、すぐ昼の食事をするように、あー、尚、連隊の庭などで、
昼食は食べてはならん、外の歩哨業務中の兵士に尋ねて、ちゃんと連隊の食堂があるので、そちらで食べるよ
うに、「なにか、質問があるものは。」というと、横の列の後ろの方の生徒が、手を上げた。
海軍士官が「よし、受験番号131番、発言してよろしい。」と言うと、「自分は弁当を持ってきていないので、町に
食べに出たいのですが。」というと、海軍士官が、「外出はかまわないが、試験に遅れないように。」と大きな声で
回答した。
ばかでかい大きな声である。
試験が始まって、用紙を見ると、又、5問である。
漢字の読み取り、 1問は、ひらがなから、2問は、漢字への書き取りと、3問は、和歌の虫食い問題である。
あきのたの、かりほのいほの、とまをあらみ、わがころもては、つゆにぬれつつの歌であった。
幸い、父のやぞうに、子供の頃からたたき込まれていたので、なんなく回答できた。
5問目は、【常在戦場】の意味を述べよ。と言う問題で、あっという間に回答してしまい、何度も見直したのである
が、時間が余ってしまった。
周囲をちらりと見ると、みんな3問目の和歌の問題で、考え込んでいて、大変そうであった。
退屈なので、答案を前に持っていき提出したら、「86番、ほうー、もう出来たのか。」と聞かれたので、「ハイ。」
と返事をして、連隊講堂を後にした。
【次回に続く。】