第81回 昭和の伝道師 【戦中、戦後のパイロットの物語。】

第80話 落胆の夕食。                          2012年 4月28日土曜日投稿。
 
薄暗くなっていく夕方を、とぼとぼと旅館に帰ってみると、女将さんが出てきて、「淵田君、遅かったわねー。」と
 
声をかけられた。
 
「おかみさん、英語の試験で不合格になってしまいました。」
 
「弁当と、水筒ありがとうございました。そういうわけで、今日泊めていただいて、明日朝、橿原の家に戻りま
 
す。」と言うと、「まあー、一生懸命がんばったのに、残念だったわねー。」と、困ったような顔つきで、慰めてく
 
れた。
 
靴を脱いで、荷物を部屋の中に降ろして、衣服などを整理して、明日の帰宅の準備をした。
 
女将さんが、「お風呂が沸いているので、夕飯のまえに入ってちょうだい。」と言われたので、入りに行って湯に
 
つかって考えた。
 
英語がまずかった。残念、無念である。
 
英語が合格していれば、あとは、作文試験と、口頭試験を残すのみであったのである。
 
あーーー、後悔しても仕方ない、今後の事は、家に帰りながら考えようと、思ったのであるが、体がだるくなって
 
何もする気がしない。
 
熱い8月である、長く湯船につかっていると、ゆでだこになってしまいそうになったので、風呂から上がって、
 
浴衣を着て、食事の広間に行った。
 
女将さんが、「今日は、熱いので、刺身こんにゃくをしたのよ。」といって、ごま豆腐の冷たいのに、刺身こんにゃ
 
く、鰹節の吸い物、ごはんの銀米、たくあんの粕漬けと、ごうかな夕食であった。
 
特に、冷やしたこんにゃくを、包丁で薄く、刺身のように切った、刺身こんにゃくと、お餅のようにモチモチとした、
 
ごま豆腐は、美味しかった。
 
女将に、「どこがだめだったの。」と聞かれたので、「英文の長文を、和訳する問題が、1問出来なかったので
 
す。」というと、「たった1問で、不合格になるのーーーーーー。」と聞くので、「そうですよ。」と返事をすると、
 
「まあーーー。」とあきれたような顔であった。
 
【次回に続く。】