第140回 昭和の伝道師【戦中戦後のパイロットの物語】
第139話 広島第1中学に戻る。 2012年6月28日木曜日の投稿です。
正月休みも終わり、又広島市に戻ることになった、源田實は、父母などに別れを言って、広島までは、兄の
松三と一緒にでることにした。
当時は、太田川沿いに鉄道が走っていて、可部鉄道に乗って、広島まで行くのであるが、最寄りの駅までは、
歩きである。
朝薄暗い時間からずいぶんと歩いて、可部鉄道に何とか乗ると、広島市まで、ゴトゴト揺られていく、
「あーーー、疲れたナーー。」と言うと、「兄の松三が、實、こんなところで疲れたようたら、わしゃーどうするん
なら、これから、ケツが板になるほど鉄道にのらにゃー東京につかんけえのー。」と、言う物だから、「兄ちゃ
ん、東京いうところは、どんな駅かいのー。」と、聞くと、「そりゃー、洋風造りの立派な建物よ、そこらの駅とちが
うわー。」と言う。
そうこうしているうちに、広島駅に着いた。
兄の松三は、東京行きの機関車待ちで、乗り換えである。
「ほんじゃーね、兄ちゃんきいつけてーね。」と、言うと、「實、勉強はええが、病気にならんようにせいよ。」と、
声をかけてもらって、駅の構内で別れたのであった。
兄の松三は、人混みの中に消えていった。
【広島第1中学校正門風景】
広島市民に、「一中の生徒です。」というと、「ほうーー、あんたたしたもんじゃのうー。」と、回答がかえってく
る名門であった。
【中央の門が、第1中学校の正門】
【上記の拡大画像】
【現在広島市内に大切に保存されている、当時の門柱】
實は、広島駅から、トコトコと歩いて、下宿先に急いだ、今日から、最後の追い込みの勉強と、中学卒業、
海軍兵学校受験が控えている。
必勝を祈願して、大正10年に臨んだのだが、さすがの頭脳明晰な源田實も、25年後、そこに、もう一人の
主人公の淵田美津雄大佐が前日、「ここがー源田の母校かいのー。」と言って、訪れ、翌日の朝、光と爆風と
ともに跡形もなく無くなるとは、想像していなかったのである。
【次回に続く。】