第578回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第577話 日本海軍 略字記号の事。 2013年9月21日 土曜日の投稿です。
週が変わって、早朝の短艇訓練が終了して、朝食が済むと、午前中は、 学科の授業です。
朝の4時ぐらいから起きていますと、 朝食を食べると眠くなるのですが、 監事附に見つか
ると、 連帯責任で、分隊全員で、罰を受けることになるので、 辛抱、辛抱の1日の始ま
りでした。
授業です。
しばらくして、昭和15年ぐらいから、兵学校の後輩に聞いたら、海軍諸記号という、授業名
になったそうで、 つまり、海軍の名称に、略字をあてがいまして、 それを暗記しないと
いけないわけです。
教官が、「 全員、教科書を開いて、見よ。」と、 前で指示を出しますと、私達は、本を開
いたわけです。
教官は、「 大日本帝国海軍ではすべて、通信などで、 この略字記号を使用する、
覚えられないやつは、落第だ、つまり、不名誉な落ちこぼれ退学になるのである。
これを、1週間以内にすべて暗記して、 自在に、通信文が書けるように、各自錬成せよ。」
「 初めは、本官が、 ひとつ、ひとつ、説明し、 次からは、貴様らに問答してもらう。」
「 いいか、まず、 連合艦隊 というのは、 GF, と表示する。 次、艦隊というのは、F,
で表示する。 聯合は、じーさん、 艦隊は、 ファール こう、こじつけて、爺さん、ファールを
打つ、こう覚えておくと 覚えやすい。
あーー、次は、 戦隊 というのは、S, である。 航空戦隊というのは、 Sf,と表示する。」
「 覚え方は、 寿司屋のフライと、本官は、覚えておる。 次に、水雷戦隊は、Sd,と表示する。
続けて、潜水戦隊は、Ss, いいか、○○戦隊というのは、すべて、Sがつくので、覚えてお
くように、あーーーー、貴様から順番に、 この記号を読んで、なにか、覚えやすい語呂合わせ
を考えてみぃーー。」と、教官は、説明につかれたのか、首席の入江生徒に、指示をしたのです。
すると、鳥取第1中学卒の入江生徒は、 「 駆逐隊 dg えーーっと、 どでかい軍手。」と
回答すると、教官は、「よろしい、 次、貴様の番だ。」と、 次席の内田生徒を指名すると。
内田生徒は、 「掃海隊 Wg, ウーマンは、ジャーマーニーのドイツ人。」 と、言うと、みんな、
クスクスと笑ったのでした。 こんな感じで授業が進んでいったのですが、 この記号は、例えば、
通信文などで、「連合艦隊より命令、 第1航空戦隊は○○すべし。」と、言う電文ですと、 「GF,
より命令、 第1Sf,は○○ーーーー。」と、なるわけです。
そして、上の写真に隊標というのが、あるのですが、 作戦会議などでも、 部隊のコマに、
隊標の絵が描かれ、 第1航空戦隊ですと、 1Sf,。 第2航空戦隊ですと、 2Sf,と、
表示か行われるのです。
海軍の中では、仲間内で、略号をつけるのが、公然と当たり前になっていまして、 「 今度
kと、接触する。」 などと言うと、 一般の人には、何の事やらわからないのですが、 「 k 」
というのは、「 遊郭の芸者 」の事をさしていて、 「 今度DRに行こう。」というと、DRというのは、
「 ドリンク」 の略字で、高級バーに酒を飲みに行くとか、 【海軍では、当時、1流の料亭、
1流の高級バー、など、1流の高い高級なお店に行くよう指導され、 そのあたりの安い食堂、
安い居酒屋に行くのは禁止されていたのです。】 いろんな略号が、海軍内にありまして、
「 Wに会いに行く。」と言うと、 「 ワイフ【妻】に会いに行く。」と、こういう意味合いがあった
のです。
まあーー、自分たちで色々と暗号を作りまして、 下士官連中の親父さんたちは、「kA」と、
言っているので、 「 なんやねん。」と、たずねて見ますと、 「自宅のかーかあーーの事であります。」
こんな感じで、先任順で、どんどんと、教官に指名され、 回答していく授業が進んでいったのですが、
徐々に、私達の分隊に順番が、近づいてきたのでした。
私は、内心、「そろそろ、わてらの番やで、えらいこっちゃ。」と、思って、必死に略字を覚えたのでした。
【次回に続く。】