第594回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第593話 幣原【しではら】外交の陰謀の事。 2013年10月7日 月曜日の投稿です。
白軍と、軍事同盟を結ぶという構想に、目を丸くしている、海老原大佐に、「 どうですか、外は
寒いので、少しだけ、飲まれては、暖まります。」と、 小さなグラスを差し出したのでした。
「ロシア人が、このお酒を飲む理由がおわかりですか。」と、総領事が尋ねると、海老原大佐は、
「 さてーーーよく知りません。」と、回答すると、 総領事は、「日本酒や、ワインは、シベリアでは、
凍結してしまいまして、飲めなくなるのですが、このウオッカという、お酒は、アルコール度数が高くて
凍結しないのです。
ここにもってこいと言われ、お持ちしたら、 飲み干してしまわれまして、日本1番の酒豪ですな。」
と、渡邊総領事が話すので、海老原大佐は、 海軍の実力者の加藤海軍大臣に近い、総領事
を、緊張して、見つめたのでした。
そして、グラスを飲むと、「 ゴホゴホ。」と、咳き込んで、 「 きついですなーー。」と
声を上げたのでした。
「ところで、外務省としては、これから、コルチャック提督の白軍と、外交交渉に入るので、話が
まとまるまでは、 武力衝突などを避けていただきたいのです。
【シベリア共和国 大統領 コルチャック提督 】
戦艦、石見が、ウラジオストックに、入港し、 陸戦隊を同伴しているというのは、東京の外務省の
本庁から連絡が入っているのです。 陸戦隊で、海老原大佐、何をされるおつもりです。
白軍を、敵に回すと、ルースキー島要塞の砲身が、石見に対して、火を噴くでしょう、艦艇1隻では
どうしようもないというのは、資料を見ていただけたら、わかると思います。」と言うと、海老原
大佐は、 「 当方は、雪解けまでに、ウラジオストックの市内に、陸戦隊約1個中隊を上陸させ
在留邦人保護のため、 宿舎、司令部、陣地などを設営したいと考えている所です。」と、言うと
渡邊総領事は、 少し間を置いて、「 この吹雪の-30度近い、冬場に、野営するわけに行かず、
何か、建物を外務省で探して、ご用意しましょう、 そのかわり、すこし、石見の中で、14日ほど、
お待ちいただきたいのです。 その間、白軍の幹部と、話をまとめまして、ーーー。」と、 机から
ウラジオストックの地図を出して、開いて、 海老原大佐に説明を始めたのでした。
行きますと、アレウッカヤ通りの39番と言うところに、堀江商店という、缶詰工場がありまして、
ここの一角を、外務省で借り上げます、 ここに陣を張りますと、 西本願寺のお寺も近く、
日本人が集まるのにも、たやすく、防衛も容易です。」と、説明すると、海老原大佐は、「 それは
助かります、 ぜひ御願いしたい、 白軍と外務省で、盟約を結んで、打ち合わせののち、その後
上陸すれば、無用の戦闘も避けられ良いと思います。 ところで、当座のウラジオストックでの、
物品の購入などに、円を現地通貨に替えたいのですが。」と、ふところから、紙幣を取り出すと、
渡邊総領事は、 「 そのお金は、石見の金庫におしまいください。 当面の費用は、
外務省が用意して、お世話申し上げます。 こちらにおとうりください。」と、別の部屋に
海老原大佐を案内したのでした。
厳重な鍵を開けると、そこには、おびただしい紙幣が山積みになっていたのでした。
海老原大佐が、 びっくりしていると、 渡邊総領事が、「 よいですか、ここのロシア
極東海軍司令官も、 ルースキー島要塞の陸軍の司令官も、 昨年から中央政府が崩壊し、
食糧の確保、 兵士の給金の未払いで、頭を抱えています。
心配しています。
ここに、日本が、この資金で彼らを援助して、 武器、弾薬、食料を供給し、軍事同盟の話を
持っていくと、飛びつくに決まっています。
軍艦、石見のみなさんは、このお金で、交渉中、ウラジオストック市内で、 トラブル
がないようお過ごしいただければ、 後は、外務省の方で、船を作って、乗っていただく
だけにさせていただきます。」と、言って、 大きな札束を、海老原大佐に渡したの
でした。
「 良いのですか、こんなにたくさん、ーーーーー。」と、目を丸くしていたのですが、
「不足なようでしたら、又、お申し付けください。 これからは、外務省と、海軍は連絡を
密に取りまして、お互いのために行動しましょう。」と、渡邊総領事は、海老原大佐に
静かに、語りかけたのでした。
海老原大佐は、 同伴の将校と一緒に、戦艦石見に戻っていったのでした。
窓の外の海老原大佐達を見ていた、渡邊総領事に、石川副領事が、「 総領事よろしい
のですか、 説明せずにあの紙幣を渡して。」と、問いかけると、「 かまわんよ、
本物とうり二つの、偽札だからな、知らずに使って、ばらまいてもらった方がよい、
日本の弱点は、 外務省は、外務省、 陸軍は、陸軍。 海軍は、海軍で、バラバラに
行動するところが弱点だ、横の連絡が全く出来ん、特に陸軍は、我が強くて、全く話にならん、
我々外務省が、工作中は、海軍には、戦艦石見で、一服してもらっている間に、命かけて、