第603回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第602話 ユキ1号指令 の事。 2013年10月16日水曜日の投稿です。
1918年 大正7年の3月初旬 泰平組合【たいへいくみあい】ウラジオストック支店の
したのでした。
「 全員、 きようつけ、敬礼、 なおれ。」 「 注目。」と、 全員整列して、作戦会議が
支店内で開かれたのでした。
高柳少将が、 「 おぃ、大田、きさま、悪徳、坊主姿が、よくにおうとるぞ。」と、 西本願寺の
僧侶に変装した、大田 覚眠に、話しかけると、「 いゃーー、ここの寒さは、坊主頭には、堪えます。」
と、頭をさすりながら、話をすると、 みんな、クスクススと笑い顔になり、なごやかな雰囲気に、なった
のでありました。
高柳少将が、 「おい、大田、貴様は、お経をあげる訓練をしてきたのだろうな。」と、問うと、
「 京都の西本願寺で、修行しまして、得度して、 覚眠 となりました。」と言うと、「 覚えて眠るとは、
なかなか、面白い名前だ。」と、またまた、笑いがこぼれたのでした。
高柳少将は、地図を開くと、三好少尉に、「 三好、 ハルピン特務機関の黒沢少将は、
ずいぶんと、貴様のことを高く買っているような、報告書を書いてあったが、 儂の所に来ても
頼むぞ。」と、声をかけられ、三好少尉は、初めて、黒沢少将が自分の事を評価して報告して
くれているのを知ったのでした。
「 本日付で、三好宏明、 陸軍中尉に、任ずる、貴様は、ここ、ウラジオストックに常駐して、
扇の要の役をしてもらう、大任であるが、しっかりやれ。」と、声をかけられ、 嬉しくなったのでした。
【 陸軍参謀総長 上原勇作 大将 】
陸軍参謀総長、 上原大将より、 暗号名 ユキ1号指令が、発令された。
これより、概要を説明する。
浦塩特務機関の目的。
1、 日露戦争で捕獲した、余剰ロシア兵器のシベリア共和国政府への売却。
2、 ロシア、沿海州などへの占領地への宣撫工作、及び、防諜、諜報活動
を、行うべし。
3、 シベリア鉄道周辺の難民の状況を挺進偵察し、報告せよ。
と、こういう、主な作戦内容である。
モスクワ政府のレーニンは、 しきりに、現在農民、労働者に、宣伝工作を進めて
おるという、情報で、 重税をかける、皇帝、貴族、 神父、地主を追放して、 みんな平等で、
労働し、富を分配し、みんな良い暮らしをしようと、共産主義の精神を説いて、
一方では、人民を惑わす物として、宗教を否定し、布教を禁止し、 教会を破壊し、放火し、
焼き払い、 神父を逮捕して、 民衆の前で、処刑し、
自分のライバルとなりそうな指導者を、あらぬ疑いをかけて、抹殺し、独裁を強めているらしい。
【 ロシア、ニコライ二世一家、 レーニンに、子供を含めて処刑された。】
先月、外務省のゴボウ役人共が、シベリア共和国との軍事同盟を締結したらしい。 我が陸軍参謀
本部も、シベリア共和国のコルチャーク提督の、オムスク銀行のロシア帝国の金塊に非常に強い関心
ウラジオストックに、荷揚げして、 シベリア共和国の首都 オムスクに搬入し、彼らに売りつけ、
代わりに、我々は、金塊を受取り、 皇軍の特務の軍資金を作るのが役目である。
南部少将が、考案した、南部式自動大型拳銃は、 ここ、泰平組合の出資者の大倉商事の
後援で、工場を作り、とりあえず、千丁程度、生産し、シベリア共和国と、商談する予定である。
ついては、儂と、三井、石川の3名は、日本ハリストス正教会の神父に変装して、布教活動
の傍ら、 シベリア鉄道の周辺の地形、都市などを、挺進偵察し、 情報を収集する傍ら、平行して、
シベリア共和国の首都、オムスクに転進する。
三好中尉は、 後方で、我々の支援をせよ。 森田、瀬沼は、 ここ、ウラジオストックに
ウラジオストック市内の、 宣撫工作【せんぶこうさく は、 民心安定の工作のこと 】と、防諜、諜報
難民の保護である。 三好は、その2名の支援にあたれ。
森田、瀬沼は、もう少し、ひげを伸ばせ、 なにしろ、ロシアの神父というのは、こうーーひげが
長いらしいぞ。」と、高柳少将が、ニコニコ笑いながら、 二人に指示を出したのでした。
高柳少将は、三好中尉に、「 戦艦 石見で、こちらに上陸した、海助【 うみすけ 海軍の軍人
のこと】 どもは、どうしておるか。」 と、問いかけると、 三好中尉は、ウラジオストック市内地図を
広げると、「はっ、外務省の総領事が用意した、堀江商店という、缶詰工場の一角に、 石川少佐
という、佐官を司令としまして、軽装備の陸戦隊、約200名が、上陸し、 ここの一角で、静かに
冬が過ぎるのを、待っているようです。」と、説明したのでした。
高柳少将は、「 ふん、海助め、生意気にも、陸軍より早く、 ここに上陸するとは。」と、
まゆをしかめて、なにやら、考えていると、「これから、日本総領事館に、出向く、三好は案内をしろ。」
と、命令を出して、 2人は、日本総領事館にむけて、寒風の中、移動したのでした。
【次回に続く。】