第758回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
大正10年11月26日 土曜日の朝0530時 起床ラッパが鳴り、私達は起床動作をしたあと、
南側練兵場にいつものように整列しまして、海軍体操をして、天皇陛下のおられます、宮城【現
在の皇居の事】方向に、拝礼をし、各自の父母のいます方角に深々と拝礼をしたのでした。
当日は、 前の日の金曜日の曇り空とは違いまして、良い天気で快晴でありました。
実は、私は不心得にも、海軍体操をしながら、 「 はぁーーーーっ つまらん、大掃除
かーー。」 と、心の中でつぶやいていたのです。
以前紹介しましたが、海軍兵学校という所は、毎週土曜日の午前中は、校内大掃除の
日でして、 午後からは、練兵場で何かの競技など、体を動かす授業があるのです。
ここ1ヶ月ほど、 小用の港で、チフスが発生し、伝染防止の為、外出も禁止と、なにやら
日曜日の休日も、行事や講演とかが、立て続けにあり、休みがなかったので、当時私は、
娑婆 【しゃば 兵学校の外に外出すること、】に、行きたいとばかり考えていたのです。
朝の、軍艦旗の掲揚が終わった後、 監事の丹生 猛彦 海軍中佐【海兵30期卒】より、訓示が
あったのでありました。
私達は、「 敬礼、 注目。」 という、号令の後、 丹生 監事が、 「 本日3号生徒は、赤痢の
入院患者の生徒はのぞいて、朝食後、全員ランチ【短艇の事】に乗船し、半島を迂回して、呉の
戦艦 扶桑 【 ふそう 】 に見学に行く事になっておる。
通常は、小用の港に移動し、 そこから艀で、呉に向かうのであるが、 最近、チフスが発生しており、
この度は、江田内より、ぐるりと半島を迂回して、呉に向かうこととする。
以上 終わり。」と、 こんな感じに、お話があったのです。
私は、内心、 「これは、昨日に続き、えーーーこっちゃでーーー。」と、 ふつふつとうれしさが
こみ上げてきまして、 昨日は、戦艦摂津【せっつ】の体験航海で、次の日は、 最新鋭の戦艦
扶桑【ふそう】を見学できるとは、 こんな良いことはないと、 随分と嬉しかったのを記憶してい
ます。
【次回に続く。】