第760回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】

第759話  海軍兵学校 呉までの航海の事。   2014年3月22日 土曜日の投稿です。
 
 
 
 
 
 
 
  大正10年11月26日 土曜日の早朝、私達、海軍兵学校 第52期の生徒は、赤痢で入院中の
 
第12分隊の2名の生徒をのぞいて、兵学校の西側から、それぞれの分隊のランチに乗りまして、一路
 
呉湾まで、隊列を作って、航海することになったのです。
 
 
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  以前紹介しましたが、海軍兵学校という所は、年上であろうが、年下であろうが、成績の
 
番号順に、序列がありまして、 わかりやすく言いますと、相撲の番付のような物です。
 
 私達の分隊の1番番号の少ない生徒は、 鹿児島一中卒業の 福元 義則 生徒でありました。
 
私達は、朝食の後、西側の護岸に整列しまして、番号をさけんで点呼の後、敬礼して監事附の
 
曹長殿に、本日の命令を受けたのでありました。
 
 「 全員、注目、 本日は、分隊はランチ【短艇の事】に乗船し、各分隊隊列を組んで、呉の沖合
 
に停泊しておる、戦艦 扶桑【ふそう】に、向かう、 この分隊の先任は、福元生徒、貴様であるから、
 
 貴様が指揮をとり、 次のハンモックナンパーの淵田生徒は、 福元生徒の補佐を命ずる。
 
 全員、指揮官及び、指揮官補佐の指示に従い、他のランチから遅れぬよう、努めるように、以上、
 
終わり。」と、命令が伝達され、 福元生徒が、「 敬礼。」 と、号令をかけると、私達は、敬礼した後、
 
駆け足で急いで ランチの準備に取りかかったのでした。
 
 
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  福元 義則 生徒が、 「 分隊、 ロープゆるめーーーーーーーぃ。」と、号令を掛けると
 
  後の生徒が、 「 うしろよーーーーし。」と、大声で合図し、 前の2人の生徒が、
 
  「 ロープ ゆるめーーい、よーーーそーーろーーー。」と、合図をしながら、少しずつ
 
 
 
 
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           ロープを緩めていったのです。  これを上手にしませんと、ランチが、
 
           斜めになったり、 ひっくり返ったりするわけです。
 
 
 
 
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        こうして、ランチを海面におろしまして、私達の呉への航海が始まったのです。
 
 
 
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      指揮官は、福元 生徒なので、彼が艦尾に陣取りまして、笛を吹くわけです。
 
      「 ビッ、 ビッ ビッ ビッ 。」と、こんな具合で、笛を吹きまして、それに合わせて
 
      漕いでいくわけです。
 
      なれるとそうでもないのですが、なかなか漕ぐのは大変でありまして、私達は、兵学校の
 
      前の江田内の湾を出まして、 津久茂瀬戸の水道を抜けて、面舵にとって、 左弦に、似島
 
      、右舷に 椎ノ木鼻を見ながら、隊列を組んで航海をしていったのです。 
 
 
 
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        私達は、半島をぐるりとまわりまして、切串の沖合を通過し、吉浦沖、呉湾に
 
        入って行ったのです。
 
         
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        みんなどういうわけか、戦艦の見学会があるためか、漕ぐのが早く、 スイスイと
 
        ランチが海面を進んでいき、 随分かかると思われていた呉までの航海は、あっと
 
        いう間に、すぎていき、私達の船団は扶桑の停泊している、呉の沖合に到着したのです。
 
        「 みんな、 水平線に戦艦が見えてきもんした。」と、福元生徒が後でさけぶのですが、
 
 
 
 
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      私達は、進行方向の逆に頭を向けて、 後ろ向きなので見えるはずもありません。
 
           福元生徒は、 「  おーーーーーすごかーー。」と、 ニコニコしながら、私達に
 
      親切に教えてくれるのですが、 私達は、こがないといけないので、大変であったのです。
 
 
 
 
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     到着してみて驚いたのですが、昨日に乗艦した摂津よりも、排水量が1万トンも大きい艦で、
 
     海面から、甲板までが、8メートルもあり、 そうですね、戦後の建物で例えますと、3階建ての
 
     屋根の上、いや、もっと上になるでしょうか、 鉄の壁というところです。
 
 
 
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        そして、 困惑させられたのが、 乗艦に使う、縄梯子と言いますか、艦の側面に
 
        張り出した、電信柱のような、柱からおろされている、縄梯子から、上に上がらないと
 
        いけないのでした。
 
 
 
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          そして、私達は、この縄梯子から乗艦することになるのですが、ずいぶんと
 
          怖い思いをするのでした。
 
 
 
【次回に続く。】