第886回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第885回 海軍兵学校、呼び水の事。 2014年7月26日 土曜日の投稿です。
私達は、整列して、前の分隊のポンプ作業を見ていたのです。
一緒に見学していた、1号生徒、2号生徒とも、見ていて、まあ、ホースを持って、
水をかける程度にしか、考えてなかったようです。
出来の悪い生徒の集まりですので、仕方がないのですが、 そのうち、 「ああっ、もう
見飽きた。」とばかり、雑談を始めまして、 それも仕方がないわけです。
第17分隊などは、 相当待たないと、順番が回ってこないのです。
何しろ、新しく配備された、ポンプは1台でして、 他の分隊が、なにやらしている程度
しか考えていなかったのです。
角田 貞雄 【海兵36期 海軍少佐】 監事殿が、「 よし、次は17分隊前へ。」と
見届けました。」と言って、 「 木梨 鷹一生徒は、 ホースの筒先を持て、 作間 英邇
分隊伍長補は、 ホースの筒先の指揮をせよ、 菅井、吉野、上杉、小川生徒は、
ポンプを動かせ。」と、 適切に担当部署を、指示されまして、 いよいよ、我が分隊の
消火演習が始まったのですが、 2号生徒は、木梨生徒1名のみ、 つまり、ホースの
筒先を持ちますと、冷たいので、 木梨生徒にやらせて、後は、1号生徒で、作業を
始めたのです。
私達3号生徒と、2号生徒は、 後の方で見学となったのです。
中俣 分隊伍長殿が、「 右ふたじゅうど 放水はじめい。」と、 命令を出すと、
伍長補の作間生徒殿が、 「 右ふたじゅうど 放水はじめい。」と、復唱しますと
木梨生徒殿が、 筒先を持って、 「えいっ。」と、ばかりに、 足を踏ん張ったのです。
角田 貞雄 監事は、 剣道の担当の教官であったのですが、 「 ふふふふふふっ。」
と、 面白おかしそうに、眺めておられたのです。
菅井、上杉、吉野、小川の4名の一号生徒殿が、 ポンプを動かすのですが、一向に
水が出ないのです。
木梨生徒殿は、こちらを見ているだけで、 「 ぽかーーん。」とされておりまして、 中俣
分隊伍長殿は、「 貴様ら、何をやっておるか。」と、4名を 怒られるのですが、一向に、
動かしても水が出ないのでした。
角田監事殿が、「 ふっふっふっふーー。」と、笑われると、他の分隊の生徒も、
一緒にクスクス笑うものですから、 ついつい、私達も、誰からと言うことなく
クスクス笑っていたのですが、 じろりと、 中俣分隊伍長殿に、にらまれまして、
沈黙してしまったのです。
中俣分隊伍長殿は、 角田監事殿の前に進み出て、「 申告いたします。
消火ポンプは、故障しております。」と、申し上げると、 雷の落ちるような
大声で、「 この おおばかもの、何を見ていたのか。」と、 きつく指導を受けたの
でした。
農業や、消防団で、昔の古いどうふんポンプを、使われたことがある人は、ご存じと
思いますが、 ポンプの中に、呼び水という、水を入れて、作動させる必要があった
ようで、 この時、初めて知ったのでした。
「この日、 複数の分隊に、同じ事を何回も指導しているにもかかわらず、
見学をおろそかにして、 雑談に興じるとは何事か。」と、 指導されまして、
私達の分隊は、連帯責任で、 全員で鉄棒の制裁訓練を受けることなったのでした。
随分大変な目にあったのですが、その後は、みんな、 よその分隊の作業も
真剣に見学するようになっていったのでした。
【次回に続く。】