第917回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
私達の目の前で、 三連装砲が、煙を吐きまして、 「 ズッカーーンーーーーーー。」と、十数発
祝砲が発射されまして、見ていた私達は、 ぶったまげたのです。
私達の分隊はランチの上で、ただただ、眺めていたのです。
なにしろ、大型艦の祝砲など、生まれて初めて、見て、 耳で大きな音を聞いたわけです。
これが、随伴艦の ダーバンという巡洋艦で、今でも鮮明に記憶しています。
人など、山の反対側の小用港、 また、呉市内からも、わんさか、人が押し寄せまして、
海岸沿いは、 黒山の人だかりとなったのです。
視力のよい、渥美生徒が、 「 あっ、 もう1隻、大きな戦艦が入ってくる。」と、
となりで叫ぶので、 目を細めて津久茂水道のほうに目を向けますと、 今度は
二連装砲の大型戦艦が粛々と、江田内に微速前進で、入港してきたのです。
時速60キロ程度を出すことが出来る当時の最新鋭 高速巡洋戦艦でした。
見ていますと、こちらも、 砲塔が回転しだし、 砲身が上に向けられまして、「 ズッカー
ーーーン、 ズカッーーーン。」と、 祝砲を撃ち始めたのです。
381ミリの砲身から、発射される祝砲は、壮観でして、 私達は、 だだ、ただ、見とれて
「 はぁーーーすごいもんや。」と、 見つめていたのです。
当日入港したのは、 レナウン と、 ダーバン という艦艇でしたが、 少し本題から
外れるのですが、 大阪に、 佐々木八十八という人の経営の佐々木商会と言う洋品屋
佐々木八十八さんが、 この2隻の軍艦に感動して、 自分の店の名前を、レナウンに
改名したのです。
つまり、 立派な軍艦の姿に、自分の店も、あやかりたいと、 こう言う考えであったようです。
ダーバンというお店も、そのうち支店として出されたと聞いていますが、 この名前が
大阪で有名になりまして、 メリヤスなどを扱う、高級繊維メーカーとして発展していきます。
昭和の戦後、 レナウン と言う名前の大きな繊維会社がありますが、 名前の語源は、
実は、妻の春子が、「 どうかしらーー。」と、 ハイカラな洋服を見せるので、
「 貴様、よくにあっておるぞ。」と、言うと、「 レナウンの洋服やがな。」と言うので、
「 レナウン ちゅーたら、 イギリスの戦艦の名前や。」と、言う話になりまして、
私も、随分と経って、鎌倉に住んでいた時期に、この会社の名前の意味合いを知った
のでした。
戦後、数十年経ち、 知る人は少なくなったのですが、 よかったら頭の隅において
おいていただけたらと思います。
【次回に続く。】