第976回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】

第975話  海軍兵学校 「我、幕営に出発ス。」のこと   2014年10月24日金曜日の投稿です。
 
 
 
 
 
 
 
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  大正11年7月29日の土曜日、本来でしたら校内大掃除の日なのですが、私達は、幕営【まくえい】
 
に出発するため、指定のランチに荷物を指示通り積みまして、 出港の準備をしていたのです。
 
すると、一足早く、先輩方の2号生徒達は準備が出来たらしく、 少しばかりスイスイと、江田内に
 
こぎだしまして、縦従陣【縦一列に船を整えること】に隊列を整えると、監事附の命令で、 ランチと
 
ランチをロープでつなぎだしたのです。
 
 
 
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      私は、 それを見て、「 なんや、けったいな、ことしとるがな。」と、眺めていますと、
 
      連絡用の機動船が近づいてきまして、 ロープを縦従陣の先頭のランチにぐっと、
 
      結びまして、 牽引するように、曳航しだしたのです。
 
 
 
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       そうしますと、 18隻のランチが順番にすいすいと、江田内を動き出しまして、
 
       先輩方の2号生徒のみなさんは、 オールを動かすこともなく、お客さん気分で、
 
       随分快適そうでありました。
 
 
 
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       「 ええなーー、わてらも、 機動船にひっぱってもらおうやないか。」と、言いますと、
 
       後から、監事附の曹長が、「 ぱかもん、2号生徒は、四国の今治の、さらに、向こうの
 
        小部湾までであるからして、 ああいうふうにするのだ、 きさまらは、 なに、すく゜
 
       そこの宮島の鳥居の北側だ、あっというまに着いてしまう、何事も訓練と思うべし。」と
 
        言われ、 どうも、私達は手こぎのようでありました。
 
 
        しばらくしますと、「 ピィーーーーーーーーーッ。」 と、笛が鳴りまして、大きな声で
 
        「 全分隊用意はよいか。」 と、 かけ声がかかりまして、 しばらくすると、「  プププフッ
 
         ププププッ、 プップップップーーーーーー。」 と、 出港の合図のラッパ信号が鳴りまして、
 
         入江生徒や、白濱生徒などの秀才分隊の第1分隊から、すいすいと、「 ビッ、ビッ、ビッ。」
 
         と笛の音に合わせて、ランチが出ていったのです。
 
 
 
 
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          少しばかり、涼しい風が吹く、江田内の海面を私達は、オールをこいで、宮島の
 
          包ヶ浦の海岸を目指して出港したのです。
 
          私は、「 なんや、手こぎかいな。」と、 内心不満であったのですが、 通常ですと
 
          今頃は、兵学校で、厠【かわや 便所のこと】の掃除をしている頃でありまして、 
 
          考えようによっては、 「 えーーこっちゃ。」と思いまして、津久茂水道を通り抜け、
 
          左に転舵して、 宮島にむかって、第1分隊から、縦従陣の陣形で、スイスイと
 
          進んでいったのです。
 
           しばらくしますと、後に陣取っている、監事附の曹長が、「 正面、目的地、
 
           見ゆる。」と、大声で叫ぶので、 私達は必死にこいだのです。
 
 
 
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           なにしろ、私達は、進行方向の反対側を向いて、こいでいるので、前は見えない
 
           のです。
 
           いよいよ、幕営の宿営地の 宮島の包ヶ浦の砂浜に、上陸することになったのです。
 
 
 
【次回に続く。】