第1090回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
なにやら、手取り足取りで手伝ってもらい、バンドのような物で身体を固定し、 パイロットは、
プロペラを回しだしたのです。
当時の発動機というのは、手回しで、随分危険な作業でありました。
しばらく見ていると、 作業が難航しているようで、 そうーー10分程度やっていたか、
「 パスン、パスン、ブブブブブゥーーウウウウウウウウウーーーーーーーーーン。」と、大きな音が
して、 みんなが、「ほうーーーー。」 と注目したのです。
戦後の現在、若者が、バイクや、車のエンジンの音を聞いて、 わくわくするように、当時の
自分達は、 だだ、だだ、 無言で大きな音に見とれていたのです。
しばらくすると、 バゥーーーンーーーブゥーーーーーーーーーン。」と、黒い煙を吐いて、
大きい音をたてながら江田内の水面を西に向かって、進み始め、 飛行艇は、水面を離れ、
津久茂水道の方に離水していったのです。
すると、しばらくすると、 方向を変えて、兵学校の方に、「 ブゥーーーーーーーううううーん。」
と、 爆音を響かせて、低空で進入していき、 急上昇して、左に転舵して、 皇国山の上空を
【 皇国山 みくにやま 戦後の古鷹山の事、 大正時代は、みくにやま と呼んでいた。】
過ぎて、 また津久茂水道の方から進入し、 低空で兵学校の方を目指して、 爆音を轟かせて
飛んできたのです。
古田中 監事殿が、「 全員、帽子フレーーー。」と、 号令すると、 みんな、作業帽を
とって、右手に持ち、 帽子を振ったのです。
ちらっと、飛行艇が通過するときに、 淵田生徒の方を見ると、 ちゃんと、敬礼していたの
でした。
監事、 教官、 生徒に、 その勇姿を見せつけたのですが、 兵学校の外の海岸沿いに
は、江田島の人達が、珍しい物を見ようと、 大勢集まっていたのです。
【次回に続く。】