第13回 昭和の伝道師【戦中、戦後のパイロットの物語】
第12話 海軍士官の五省のつぶやきを聞く。 2012年2月15日投稿です。
合宿第1日目の浜辺で、赤い水泳帽をかぶらされて、みんなから、笑われ、途中
で帰ろうかと思ったのですが、負けてなる物かと、思い直し、宿舎の不断寺に歩い
て戻ったのです。
もう夕方であったと思いますが、井戸水で潮の吹いた、体を洗い流し、又それが冷
たいのなんの、夏だからよけいに冷たい、少し休憩することにして、普段着を着て、
葛城村から持参した本でも読んでいようと思ったのですが、ふと、海軍将校の部屋
に行って、海軍兵学校に入るには、どうしたらよいのか聞きに行こうと思いたちまし
て、海軍将校の宿泊している寺の別室に、近づくと、この暑いのに、障子を閉めて、
2人でお経のようなことをつぶやいているのです。
二人とも水泳で疲れて、頭がどうにかなったのでは、と考えていたのですが、
「だれかーっ、そんなところで諜報をしておるのはーーーっ。」と若い将校の一人が
障子を開けて出てきて、げんこつを入れられてしまったのでした。
「いててて。」というと、もうひとりの将校が、「おいーきさま、ガキはもうほっといて、
はじめから五省をやり直しだ。」といって、正座をしたままこちらを見ていた。
「海軍さん達、なにを独り言を言ってはるんですか。」と、たずねると、「ばかもーん
、貴様は知らんでよい。」と言う物だですら、「教えてくれるまでかえらんさかい。」と
言うと、「なにおーっ生意気いいおって。」と拳を振り上げたのです、すると、もう一人
の将校が、「おい、猪、よその生徒を痛めたら、だめだぞ、ここは、娑婆【海軍以外の
一般社会の事】なのだ、いい加減にしとけ。」といさめに、廊下に出てきたのでした。
「おーっ、貴様は、例の赤い水泳帽ではないか、ここに正座をして、よく聞いていな
さい。」と言って、正座をさせられたのでした。
二人とも、正座をして目を閉じ、「五省【ごせい】、ひとつ、至誠にもとるなかりしか、
ふたつ、言行にはずるなかりしか、三つ、気力にかくるなかりしか、 四つ、努力に
うらみなかりしか、五つ、不精にわたるなかりしか。」と唱えていたのでした。
艦長、と、同じく第46期卒 猪口敏平海軍中尉のちの、戦艦武蔵艦長との初めての
出会いであったのです。
【次回に続く。】