第74回 昭和の伝道師【戦前、戦中のパイロットの物語】

第73話 練兵場の風景                             2012年4月21日土曜日投稿。
 
食事を済ませて、時計を見ると、まだ10時40分である。
 
まだ、試験は終了してないらしく、誰も会場の講堂から出てこない。
 
やはり、3問目の百人一首の問題で、つまづいているのであろうか、弁当箱をかたづけて、管理人の先ほどの
 
軍曹に、礼を言って、ぺこんと頭を下げて、連隊食堂を後にした。
 
することもないので、学校の運動場のような、練兵場に行ってみると、陸軍の兵士が、教練の最中であった。
 
当時は、軍事教練という科目があって、母校の畝傍中学でも、軍事教練には積極的に取り組んできたので、
 
本場の陸軍では、どんなのだろうと興味があったので、庭の植え込みのそばから、遠くからであるが、見学させ
 
ていただいた。
 
すると、下士官の兵士が、若い兵士に向かって、大きな声で何かを話していると思ったら、若い兵士の顔を思い
 
っきりぶん殴って、鼻から血が噴き出した。
 
さらに、足で、蹴り飛ばして、ひどい事である。
 
さらに、右の方の、別の場所では、同様な事が行われていて、殴る、蹴るの暴行で、こちらの方は、銃剣術
 
使用する、木銃で、ぼかぼかとやっている。
 
やられている若い兵士の方は、無抵抗で、鼻や口から血を出している。
 
残りの兵士は、8月の熱い日差しの中、直立不動で、そのままの姿勢である。
 
陸軍という所は、とんでもないところだと、そのとき、思ったのであった。
 
海軍兵学校の試験に落ちたら、徴兵の赤紙が来たら、自分もこの38連隊に、入営しないといけないのである
 
が、こんな所、まっぴらごめんである。
 
すこし、成り行きを見ていたのであるが、見るに忍びず、練兵場を後にして、講堂の方へ戻っていると、
 
直立不動で、若い兵士が、兵舎の壁に向かって、一人で何かをしゃべっていた。
 
なにを言っているのかと思って、そばに寄ってみると、「申し訳ありません。38式歩兵銃殿、自分はーーーー。」
 
と、おかしな事を言って繰り返していたのであった。
 
ま、今考えると、小銃の手入れが悪くて、週番下士官に指摘を受けて、罰でも食らっていたのであろうと推測
 
するが、当時は、陸軍という所は、とんでもないところだと思ったのであった。
 
【次回に続く。】